JUKE RECORDS、そして松本さんのこと

 JUKE RECORDS。そこは、店主 松本さんの「本当に素晴らしい音楽を紹介したい」という強い思いでセレクトされたレコードで溢れ、私たちはそのレコードを「購入すること」で、音楽を聴く喜びのみならず、松本さんを中心とした、人と人との心のふれ合いを感じられる、そんな交歓の場でもあったと思う。
 その45年間におよんだ日々の中、私個人が客として通っていたのは24年ほどと、実は決して長いほうではない。それでも、忘れられない数々の想い出は、楽しいものばかりで、思い返すだけでも笑みがこぼれてしまう。
 そんなエピソードのいくつかを、ここで皆様に紹介し、それこそ笑って読んでいただけたら、きっと天国の松本さんも照れくさい表情でニコニコされるのでは…と思いをはせながら。


 私も松本さんと気軽に話せるようになるまでは5年以上費やしたが、仲良くなったらなったで、もうそこは想像以上に楽しいことばかりで。
レコード物色中の私にかけられる言葉がもう!ある日、リンク・レイを見つけ早速手に取った私に、「それ、売場に出したばっかりなんだけど、本当は売りたくない」と!私の50年以上の人生でも、お店で「売りたくない」と言われた、後にも先にも唯一の経験だ(笑)
 またある日、店内のBGMがあまりにもカッコよく、思わず「これ誰ですか?」と尋ねると、「ロニー・バードなんだけど、これは私の私物にしようと思ってて…」と、真顔で謎の牽制球を投げつけられ(苦笑) 
天使(店主)と悪魔(コレクター)、松本さんの中でふたつの顔がせめぎ合った一瞬!私は牽制球に手も足も出せず!
 こちらも、レジに立つ松本さんに「いっぱしのリスナー」と思われたくて、背伸びした買物をしたことは一度や二度ではすまない。「メジャーなアーティストのベスト盤など言語道断」と勝手に思い込み、理解不可能なディープなブルースに手を出す。それが後々、自分の血肉になりはするのだが。余談だが、当の松本さんは寧ろベスト盤をたくさん愛聴されていた。

 2010年2月、松本さんが還暦を迎えられた際に、冊子を常連客有志の発案で作ったことがあった。それは多くの常連客が、想い出深いレコードを一枚ずつ紹介していくという内容で、還暦パーティーの際、松本さんに、サプライズで差し上げたのである。その時、松本さんは照れた笑顔で「私は世界一幸せなレコード屋です」と仰っていたことが忘れられない。


それから数カ月、お店が開店33年と1/3カ月(もちろんLPの回転数のシャレ、つまり33年と4カ月)を迎える時、松本さん直々に私へご依頼を受け、もうひとつ冊子を作ったことがある。

 「33年間の営業で印象に残るレコードを33枚セレクトし、そこに私のコメントも載せる、そんな冊子を作ってほしい。それを33周年記念パーティーで皆に配りたい。セレクトはもう頭の中にあるし、コメントもすぐ書けるから、数日中に諸石君のメールに送るけん」と伺ったのがパーティーの”数カ月前”
「よろこんで!」とお受けしたものの、本番”数日前”になってもメールは来ない!
恐る恐る電話で催促し、「あー、そうやった」との御言葉のあと、それなりの時間を置いてデータ到着!そこからもう本番まで夜も徹して突貫作業!画像集め、デザイン、印刷、製本、すべての作業が終わったのは、ジョイントのカウンター席で本番の”数分前”…。
 大変だったが、「こんな僕もJUKEの仲間の一員になれたかも」という喜びが勝っていたのは間違いない。ずっと仲間になりたくて堪らなかったんだから。
 この冊子「JUKE RECORDS 33 1/3Years Special」は、このサイト【JUKE RECORDS REVISITED】にもアップして頂いています。内容充実ですので、是非ご覧ください。
そのパーティーの際、7インチの回転数にかけて「次は45周年!」と会場が盛り上がる中、松本さんは「45周年は、どうなっていることやら」と苦笑いをされていたが、みんな無邪気なほどに、その日が来ると信じていたと思う。
 そして45周年を迎える2022年の秋の日、松本さんの訃報が私たちのもとへ届く。それは誰にとっても、自分の人生の大事な一部分、大切にしたい心の居場所がなくなってしまうような、そんな知らせだったと思う。

 「店が続く限り、無期限で、有効。」だったポイントカードも、もう使えない。
 
 私たちが、ジュークの閉店に心から寂しい気持ちになったのは、そこが「人と人の交流地点」だったからではないかと、今思う。松本さんは、よく客同士を引き合わせてくれ、それは音楽リスナー同士の枠を超え、心優しいつながりを生んでいた。
 そう、私たちが松本さんから受け取った大切なメッセージのひとつ、それは「楽しいことはみんなで共有しよう!」ということだった。そうしたらもっと楽しくなるよと。実際、DJイベントにおいても、「どんな曲がかかっているか」以上に、「お客さんが楽しんでいるか」を重視され、成功時には破顔一笑。一方、上手くいかない時には「DJ同士の同好会みたいなイベントをしたらダメだ」と手厳しかった。
 そうして松本さんがレコード屋を通じて撒かれた種は、今もいろんな場所で有機的な人のつながりを生み続けているし、これからも隔世遺伝していくと信じたい。
 その灯を絶やさず、継承していこうという思いが、この【JUKE RECORDS REVISITED】のサイトには込められていると想像するし、そこに拙文ながら私もこうしてコメントさせてもらえることは、本当に嬉しい限りです。

 こんなレコード屋さん、ほかには無いだろう。松本さんが「世界一幸せなレコード屋」であられたなら、そこにあしげく通った私たちは「世界一幸せな客」だった。
ユーモアたっぷりな水先案内人、松本さんに教えてもらった音楽を楽しみながら、私たちはこれからも生きていく。楽しいことはみんなで共有することを忘れず、人とつながりながら。
松本さんも、それがいちばん喜んでくれると思うし、それこそが「KEEP ON JOOKIN'」ということなんだろう。

 都合により実店舗は休業中だが、私たちの心の中では、今日もJUKE RECORDSは絶賛営業中なのだ!

団体職員 諸石覚