<回想録19> ジューク・レコードの経営について

「初公開!本人が綴る ジュークレコード・松本康ヒストリー18」
松本康の遺品の中から、自ら人生を振り返った手記が見つかった。
博多のロックの嚆矢・サンハウスの面々との出会いで音楽にのめり込んだことなど一部の経歴は知られていたが、幼少時からの詳細な記述はこれのみと思われる。博多の名物レコード店の主がどのように生まれたか、本人による「メイキング・オブ・松本康」の趣あり。数回に分けてお届けする。
いよいよ最終回。全19回となったのも何かの導きか。

【ジューク・レコードの経営について】
 ジューク・レコードは内容が充実して、なかなかよそにない特徴のある店になった。レコードを作ることも出来て、知る人ぞ知る店になれた。
東京の人でも『福岡に行ったらジュークに行くといいよ」と言ってくれるようになった。ある人は「あの頃のジュークは日本の中でも卓越していた」と言ってくれた。

 まず、置いているものが違う。ブルースはもちろん、ロックだと、パイレーツ、ドクター・フィールグッド、キンクスなどが充実している。 また、他の店だと、新譜は置いていても新譜でないものはないところが多く、大体は新譜とベスト盤しかない。だけど、うちは一つのバンドのレコードが全部ある。それがジューク。でも「ジュークは揃っているけれど、売れていないからあるんだ」と思っているお客さんもいる。売れたら必ず仕入れている。国内盤、輸入盤で、きちんといつも揃えているというのはとても大変なことだ。でも、気に入ったらきちんと全部置いてやりたい。逆にメジャーどころは新譜とベスト盤だけでもいい。

 心から好きだからやっている。100あるアイテムから1に絞るのは大変で、勇気のいることだ。宇多田ヒカルは置かないけれど、店が続いている、それは言うのは簡単だけど、実際にやるのは難しいのだ。自分が置きたいから置いている。120パーセントの自信はそこから湧いて来る。

 本当はまだまだ、あれを置きたい、これも置きたい、というのがある。アフリカンやアイリッシュを全部きちんと置きたいし、レビューもきちんと付けたい。まだまだやりたいことはたくさんある。
 お客さんが理解してくれていて、お客さんがついていてくれているからこそ、続いている。ひとりよがりではなく続けていることを、お客さんは察知してくれていると思う。

 レコード屋は商品を置いておけば、お客さんが勝手に見て、買って、喜んでくれる。置いたもので主張することができる。特に気に入っているものには、プライスカードの余白にコメントを書き込んで、さらにアピールしている。ただ、コメントも全ての商品に付けていたら嘘になる。自分が心から押したい、自分のものになっているものだけにコメントするように心掛けてきた。

 商売というのは人との関わりだから、それを大切にしていないとどこかで後々損をする。お天道様は何でもお見通しだ。人前ではいいことをやっていても陰で何をしているのか分からない、というのはだめだ。私の哲学である。

 自分はレコード屋や商売の経験もなかったが、いろんなことから俯瞰して学んで来た。日々てれっと生きていたら学べない。お客の気持ちになって考える。例えば、よそのレコード屋のカウンターで店員がタバコを吸いながら作業をしているのを見ると、客としていやだな、と思う。だから、私のスタッフには店内で吸わないように言っている。

また例えば、ジューク・ジョイントで、パイン・ジュースと間違えてグレープフルーツ・ジュースを出したことがあった。お客さんは「いいよ、もう飲んでるから」と言ってくれた。でも、そこで、「あ、お客さんがいいっていいよるけんいいか」となると、そのお客さんは二度と来てくれないだろう。だから、きちんと出しなおした。基本的なことだ。

 日々身近で感じることや気をつけたいと思ったことを、自分のシステムに組み込んでいくだけだ。何が大切かを考えれば答えは簡単だ。あとは動くのは当たり前。自分のことなのだから。
 私はよくスタッフや周りの人に「何をやるにしても自分が主人のつもりでやりなさい」と言っている。何にでもそうあるべきとはいかないが、少なくとも自分の好きなことなら人ごとだと思ってやっても結果は出ない。

以上、第1部終わり。(未完)

《参考図書》
「福岡音楽本」(プランニング秀巧社)
「ロック画報17」(ブルース・インターアクションズ)
「素晴らしい本」アンジー著(SHIKO MUSIC)
「レコード・コレクター紳士録」大鷹俊一著(ミュージック・マガジン)
「レコード・コレクターズ」(ハジレコ・コーナー)(ミュージック・マガジン)
「BLUE-JUG」
《参考インターネット・サイト》
「Roof Top」(07年1月号)「山部“YAMAZEN”善次郎"×スマイリー原島」
「ロッカーズ・ファンサイトTHIS IS TH eROCKERS」