僕らが夢中になった『松本康のLET IT BEAT』

1980年代に差し掛かった頃、松本さんはFM福岡のラジオ番組『ライヴ・エクスプロージョン』の1コーナー、『松本康のLET IT BEAT』を担当していた。
そこではビートルズやローリング・ストーンズ、フー等のブリティッシュ・ビートやモータウン・サウンド、ブルース等を紹介していた。

僕はロックを遡る事に興味があったので番組を録音して繰り返し聴いていた。「For Your Love」も「The Kids Are Alright」も「She's Not There」もそこで知った。また曲をかける時のコメントに説得力があった。例えば、ビートルズの「恋におちたら」(If I Fell)紹介時には「バラードだけど、この曲にはビートがある」。

レット・イット・ビート当時のオンエアプレイリスト

The Rolling Stones / Little Red Rooster

ある日ストーンズの「Little Red Rooster」がオンエアされた。松本さんは「デビューして間もないストーンズがこんなマイナーなブルースをシングルに選び、そしてイギリスで1位を取った事は大変意義深い」とコメントした。僕は「なるほど」と納得した。

 

そして松本さんは番組を通じて、選由表を発展させたパンフレットやオリジナルのカセットテープを作るようになり、番組でその手伝いをしてくれるスタッフを募集した。「電話は苦手なので直接店に来てください」と。
その日の午後にジューク・レコードに行ったら面接も試験もなく採用された。僕の他に数人参加した。やがて応順ビルの屋上で印刷などの作業をする日々がまった。

80年代も後半になろうとする頃、僕らは就職したり仕事が忙しくなったりで、手伝いが出来なくなってしまい、付き合いも疎遠になった。

時は流れ1990年。ストーンズが初めて日本にやって来る事になった。幸運にもチケットを手に入れた僕は、かつてジュークに集まったスタッフ仲間に電話した。「チケット取れたから一緒にストーンズ見に行こうぜ」。

ライブの中程「You Can't Always Get What You Want」が終わった後、馴染みのあるブルースのイントロが聞こえて来た。ストーンズは満員の東京ドームで、あんなマイナーな「Little Red Rooster」を演奏したのだ。しかもこの曲は僕等が見に行った日しか演っていない。
「松本康のLET IT BEAT」の同窓生が来たのだからブルースをぶちかましてくれた、と思わずにはいられなかった。粋な計らいだった。
最も、それは松本さんが行った日にこそプレイすべきだったと思うのだが…。